2018
秋田県仙北市を流れる一級河川、玉川。その上流で玉川毒水と呼ばれるPH1.3の強酸性水が噴出する、まるで原始のような光景に衝撃を受け2009年より撮影を開始。手つかずの自然である源流から、毎分9,000ℓという日本一の湧出量で流れ込む毒水は、人々の生活圏内を流れる川の水にも大きな影響を及ぼしている。その酸性値を抑えるために建てられた中和処理施設やダム、湖(田沢湖)への導水など、人工的に管理される水系を辿り、流動する水の瞬間を高速シャッターで捉えた。酸性毒水と清水、自然と人工。異なる性質を内包し、止め処なく変化を続ける流転の水系。肉眼を超える写真によって映し出された水の造形と輝きを紡ぎ、その多彩な様相を可視化する
2016
降り積もる雪の夜、静寂のなか一人ファインダーを覗いていると、ふと、どこか遠い惑星にいるような錯覚に陥る。写真に捉えられた雪は、まるで無数に輝く星のようだ。星の光が数千光年を超えて私たちに届くよう、雪もまた太古より循環し時を巡り、現在に降り注いでいる。それは、悠久の時と「いま」が触れ合う瞬間の光景でもある。
2015
秋田県角館町に400年以上伝わる「火振りかまくら」。菅(すげ)から編み込まれた炭俵に火をつけ振り回し厄を祓い、五穀豊穣、無病息災を祈願する冬の伝統行事だ。火振りかまくらの写真は、スローシャッターの効果で炎の軌跡が円状となる撮影方法が一般的であるが、私は高速シャッターによって肉眼では見ることのできない表情を捉えた。焼け散る炭俵と一体になった炎の造形は、回る速度や方向、風などの天候によって変化し、同じ形は2度と生まれない。人の手が編み込んだ炭俵が、自然の火によって解きほぐれてゆく瞬間。伝統行事としての意味を超えた、400年間繰り返される人と自然のサイクルを写真に定着させたい。何より、太古より人類に恐れを抱かせると同時に惹きつけてやまない「火」そのものの魅力に、私自身も取り憑かれているのかもしれない。
2007
タイトルの「arkhē」とは、古代ギリシャの哲学で<根源>の意味である。地球上のあらゆる生命を生み出してきた水と太陽。無色透明で形が定まらない水は、 波、泡、渦、飛沫等、様々な姿を見せる。しかし、私が撮りたかったのは写真でしか 視ることのできない、肉眼を超えた世界だ。望遠、接写、高速シャッターにより、瞬間の造形を写す。天候、時間等によって 水と太陽は刻々と変化する。 大自然の偶然と私の意識が重なる瞬間、生命の根源のような水の宇宙が出現した。